ほぼノンフィクション ある日のこと

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男(Y)の場合

桜の開花宣言が出た翌朝、妻と子供は出て行った。

にぎやかな声を思い出し、寂しさが胸に押し寄せた。

いつもより部屋が広く感じた。

Yは気持ちを落ち着かせるためにお湯を沸かしコーヒーを淹れた。

いつもなら妻が入れてくれるコーヒー。

口に含んだコーヒーはいつもより苦く感じた。

リビングに無造作におかれた妻と子供の服が目に入った。

「仕方ないな」

Yはそうつぶやきながら服をハンガーにかけた。

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男(A)の場合

Aは車を走らせていた。

妻と子供に見送られ、いつもより早く家を出た。

遅れてはいけない大事な約束があった。

子どもの頃から「約束は守らなければならない」「時間は守らなければならない」と厳しく育てられてきた。

思春期には口うるさい親に反抗したこともあったが、今となっては親の教えの大切さがわかる。

「そろそろ桜が咲く時期だな、お袋は元気にしているかな」

信号が青に変わり、Aはアクセルを踏み込んだ。

ふたたび 男(Y)

おもむろにパソコンに向かいYは無言で文字を打っていた。

頭に浮かんでは消えていく雑念をはらうかのように、「集中するんだ」と自分に言い聞かせていた。

空になったコーヒーカップ。

二杯目のコーヒーを淹れるため、再びヤカンに火をかけた。

外はいつの間にか雨が降り始めていた。

妻や子供達がいればにぎやかなので、雨の音にも気づかなかっただろう。

静かすぎる家の中。

沸騰したヤカンがカタカタと踊りはじめ、慌てて火を止めた。

・・・・・そのとき。

突然、チャイムが鳴った。

ふたたび 男(A)

Aの運転する車は住宅街に入った。

保育園児たちの列が目に入りスピードを落とした。

彼らが横断歩道を渡るのを待つ間、時計に目をやった。

「落ち着こう、少し早いけど問題ない」

道の先には赤い屋根の家が見える。

あの家のある交差点を曲がればいよいよだ。

何度もこの道は通っている。

やがてAは表札の無い家の前に車を止めた。

二人

Yはチャイムの音に驚いた。

「一体誰だろう。」

一瞬、妻が戻って来たのではないかと考えて、「それはないな」と思い直した。

「となると、あの人ではないだろうか」

自分でも鼓動が波打つのがわかった。

「少し早い気がするけど、まさか・・・・」

玄関を開けるとそこには何度か顔を合わせたことのある男が立っていた。

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車から降りたAは手元の紙を見て、「間違いない、ここだ」とうなずいた。

「果たして、いるだろうか。」

物音が聞こえないので誰もいないのではないかと不安になりながらチャイムを押す。

すると建物の奥から足音がした。

ゆっくりと開いた扉から男が顔をのぞかせた。

YA

2人が一言ずつ会話を交わしたあと、Yの手には箱が握られていた。

「妻は許してくれるかな」

Yはうれしい気持ちと少し不安な気持ちが入り混じった。

おわり。

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解説

だれもが経験しているであろう、ありふれた日常を切り取ってみました。

朝、会社へ出かけた妻とそれぞれ保育園や小学校へ行った子供たち。

在宅勤務の男性Yは、いつもより静かな家でコーヒーを淹れます。

無造作に置かれた服は、妻から「干しといて」と言われた洗濯もので、Yは「仕方ないな」としぶしぶ干すのでした。

一方の男性Aは仕事のために早朝から出勤します。

時間を守ることが求められる仕事なので、親の教えのありがたさを感じています。

パソコンに向かうYですがどこか落ち着きません。

気付くと空になっているコーヒを淹れなおします。

Yの家に近づくAの車。

Aは毎日のようにこのあたりを走っているので、表札がない家でも誰の家かはわかっています。

やがて、AYのいる家に着きチャイムを押します。

A「Yさん今日はこちらです。」

Y「どうも、ありがとうございます。」

2人は一言ずつ言葉を交わし、Yはダンボール箱を受け取りました。

待っていたものを受け取り嬉しい反面、妻には内緒なので少し不安な気持ちもあります。

インターネットで注文したキャンプ道具をそわそわしながら自宅で待つ客と、それを届ける配達員のお話でした。

あとがき

※ヨメサンにあらかじめコレを読ませて感想を聞くと、強めの広島弁で、

「じゃけぇ、どしたん」(標準語訳:だから どうした)

と言われ泣きそうになりましたが、2週間ほどキャンプに行っておらず、ほかに書くこともないのでとりあえず載せます。

おわり。

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